防災

震災経験者に聞く! 被災生活で「あってよかった物」「なくて困ったこと」

目次

地震、台風、豪雨、大雪、火山噴火など、日本は毎年のように何らかの自然災害が起こっている“災害大国”だ。そうした災害から命を守るためには“防災”への備えが大切だとは分かっているけれど、実際にどんなことを備えておけばいいの? と思っている人も多いはず。そこで今回は、東日本大震災で被災した体験を持つイラストレーターで防災士のアベナオミさんに、被災した当時「備えておけばよかった」と実感したことを教えてもらった。

東日本大震災発生直後の実情…「震災発生時はすぐに日常が戻ると思っていた」

「宮城県多賀城市で生まれ育ったのですが、宮城県は一定の周期で大きな地震が発生している地域ゆえ、小学生の頃から防災教育がしっかり行われています。防災への意識が高い半面、小さな地震が頻繁に起きるので、揺れに慣れてしまっていた感じがありました。これまでに最大震度6強の地震も何度か経験しましたが、自分の生活圏では大きな被害が出なかったこともあり、『この先、また地震が起きても大丈夫かもしれない』と油断していたんです」

「そんな中、2011年3月11日に東日本大震災が発生。とにかく想像を絶する大きな地震でした。私は田んぼの真ん中を車で走っていたのですが、突然、カラスやスズメなどの野鳥が一斉に飛び立って空を埋め尽くした直後、強い横風を受けた時のようにハンドルが取られ始め、海の方向からはゴゴゴゴォという大きな地鳴りが聞こえてきました。また、ミサイルでも落とされたかのような爆音も3回ありました。その音は岩盤が割れる音だったそうです」

「車を路肩に止めて待っていると、揺れが収まったので自宅アパートに帰宅。玄関の照明が割れていたり、キッチンや私の仕事机がぐちゃぐちゃに散らかっていました。家の中を片付けた後は、保育園にいる息子を迎えに行ったり、実家の様子を見に行ったりしました。でもこの時はまたすぐに日常が戻ってくると思っていたので、保育園で保育士さんと『来週もよろしくお願いします』と会話をするなど、深刻には受け止めていなかったんです」

震災発生時のキッチンの様子。調味料等をたくさん置いていたため揺れで散乱

震災当日から徐々にライフラインが遮断、水道の復旧には1カ月も!

「震災の被害でわが家はまず電気が止まり、復旧したのは3日後です。その間、テレビもスマホもパソコンも使えず、情報源は電池式ラジオだけでした。冷蔵庫、電子レンジ、炊飯ジャーといった家電もすべてアウト。水道は震災翌朝までに止まり、完全に復旧したのは1カ月後でした。

飲料水は救援物資などで入手できる機会があるのですが、困ったのはトイレや洗濯などに必要な生活用水です。私は降り積もった雪をバスタブに入れて、溶けて水になったものを使用しました。近くの川にはトイレに流すための水をくみに来ている子どもがたくさんいましたね。また、わが家はプロパンガスだったのでガスコンロが使えましたが、ガス会社から『次の交換までめどが立たない』と通達されていたので節約して使いました」

被災前から備えておいてよかったこと

ここからは、アベさんが震災発生直後に、「日頃から備えておいてよかった」と実感したことやアイテムの中から、とりわけ助かったものをご紹介!

<物が少ない寝室>

震災当時のわが家はメゾネットタイプの賃貸住宅で、2階を寝室にしていました。2階まで運び入れるのが大変という理由から大きな家具を置いていなかったことが幸いして、寝室はほとんど被害を受けませんでした。そのおかげで震災当日も普段通りに寝ることができました。被災生活は不安やストレスが重なるので、心と体を休めるためにも寝室の安全確保は大事だと思います。

<充電式クリーナー>

震災直後のわが家のキッチンやダイニングは、割れたお皿、ガラスの破片、観葉植物の土などが散乱していて、そのままでは生活できない状態でした。そこで大活躍したのが充電式のクリーナーです。大きながれきを片付けた後に残った細かい破片や土をしっかり取り除くことができました。

<電池式ランタン>

震災で停電していた3日間、わが家で唯一の明かりは電池式ランタンでした。でも明かりが一つしかないのは心細く…できれば各部屋に一つ、最低でも家族の人数分は明かりを用意した方がいいと感じました。

<カセットコンロ&ガスボンベ>

わが家はプロパンガスだったのでガスが全く使えないという事態は免れたものの、次のガス交換がいつになるか分からない状況で無駄遣いは禁物でした。そこで常備していたカセットコンロを併用し、プロパンガスの使用を減らしたんです。一人暮らしなどで収納場所が限られている場合は、カセットコンロよりコンパクトなチーズフォンデュセットでも代用できると思います。少しでも水を温められる道具があれば、生活の質を上げることができます。

<お尻拭きシート>

水道が完全復旧するまでの1カ月間はお風呂に入ることができなかったので、赤ちゃん用のお尻拭きシートで体を拭いてしのぎました。汗拭きシートより大きくて拭きやすく、赤ちゃん用なので肌にも優しいから安心して使えます。体や手足を拭くだけでなく床を拭いたり、テーブルを拭いたり、食器の汚れを拭き取ったりと、万能かつ最強の防災アイテムです!

<オムツ防臭袋>

震災が発生してから2週間はゴミの収集もありませんでした。持ち家ならば、庭などの敷地内にゴミ袋を保管できたかもしれませんが、賃貸の集合住宅でそれは難しく、家の中にゴミ袋がどんどんたまっていきました。その時に重宝したのがオムツ防臭袋です! 臭いをシャットアウトしてくれるので、汚物や生ゴミの不快な臭いに悩まされずに済みました。

被災生活での反省を生かして備え始めたこと

被災生活は不自由の連続。反対に、「日頃から備えていたらこんなに困らなかったかも…」と思ったことや改善策も教わった。

<非常用トイレ>

水道が止まってしまった1カ月間、何よりつらかったのがトイレの水を流せないこと。夫婦とはいえお互いの排せつ物は見たくないし、さらに最悪なことに私は震災翌日から生理も始まってしまったんです。こうした経験を踏まえ、今は家族の人数×10日分の非常用トイレ(便器設置タイプ)を常備しています。

<家電や小物の固定>

大きな地震では、電子レンジや炊飯ジャーといった小さな家電は簡単に飛んでいってしまいます。震災が発生した瞬間にもし誰かが家にいたら、大ケガをしたかもしれません。そのため、今では全ての小型家電を100均の滑り止め用のジェルマットで固定しています。震動で散らばりやすい小物はボックスにまとめ、そのボックスにも滑り止めのジェルマットを貼りました。こうした備えのかいあって、2022年に発生した最大震度6強の地震の時でも、キッチンの床にみかんが1個落ちただけで済みました!

食洗器やその下の調味料ボックスはジェルマットで固定

2022年の地震発生後。調味料や引き出しの多少の移動はあったものの、大きな被害は出ず

<タンスや棚の下段に重心をつくる>

“つっぱり棒”があまり好きではない、設置が難しいという方におすすめしたいのが、タンスや棚の下段に重心をつくり、家具そのものを倒れにくくする方法です。タンスの一番下の引き出しにミネラルウォーターや缶詰などをストックすれば、備蓄と重しを兼ねられます。

重心を重くするために食器棚の一番下の段には備蓄用の水を保管

<ローリングストック>

災害時の食料といえば非常食が思い浮かびますが、被災生活が長引くといつもの味が恋しくなるもの。もちろん、非常食は優れたアイテムですが、当時の私は非常食を食べていると心まで非常になってしまい、とてもつらかったです。その経験から、備えとは「いつもの日常(味)を保てる準備をしておくこと」だと実感し、今はいつもの食材を少し多めに買い置きしておく「ローリングストック」を実践しています。

早ゆでパスタは非常時に燃料節約になる。カップスープにパスタを入れても◎

震災を経験したことがないと、被災生活の実情を把握したり本当に必要な物をそろえておくことは難しいもの。そんな時、実際に経験した人の話を聞いて防災意識を高めておくことはとても重要。いざという時に困らないよう、日頃からしっかりと対策しておきましょう!

取材・文=野中かおり

アベナオミ

宮城県在住。3人の子どもと夫と暮らすイラストレーターで防災士の資格も持つ。日本ビジネススクール仙台校(現・日本デザイナー芸術学院仙台校)卒業後、地域情報誌のグラフィックデザイナーを経て、イラストレーターに。コミックエッセーを中心に活動中。2011年に夫と長男と東日本大震災で被災。その時の体験を基に、本当に必要な防災、続けられる防災について発信している。『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40』(学研プラス)、『マンガでわかる ひとり暮らしのトリセツ』(マイナビ出版)、『マンガでわかる! 幼児の子育てはじめてBOOK』(KADOKAWA)など著書多数。

公式ホームページ

 
 

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