【週末エンタメ】青い瞳の名優ポール・ニューマンが体現する、いとおしさにあふれた不撓不屈のアウトロー像
20世紀のハリウッドを代表する名優として知られるポール・ニューマン。名誉賞を含む3度のアカデミー賞受賞など輝かしい経歴の中から、代表作4本がラインアップされた『≪テアトル・クラシックス ACT.2 名優ポール・ニューマン特集 ~碧い瞳の反逆児~≫』が2022年10月21日(金)より全国順次公開中だ。ここではそんなニューマンの魅力を振り返っていく。
ジェームズ・ディーンやマーロン・ブランドに差をつけられた不遇の時代
2008年に83歳でこの世を去ったニューマン。引き込まれそうな青い瞳が印象的な “ハンサム”という言葉が似合うだて男のイメージだが、そんなスマートなルックスとは裏腹に、その人生では数々の苦難を味わってきた。
スクリーンデビュー作が失敗作の烙印を押されるなど、キャリアの初期は意外にも不遇だった (C) 1961 Twentieth Century Fox Film Corporation.
幼少期は虚弱体質のいじめられっ子、青年期は定職に就かず、第2次世界大戦でパイロットを志望するもその美しい瞳が色盲であることが判明し断念。また終戦後は大学でフットボールの選手として活躍するも、チーム内のけんかで除名されるなど報われない日々を送った。
俳優になった後も、アクターズ・スタジオで同期だったジェームズ・ディーンやマーロン・ブランドがスターダムを駆け上がっていく中、ディーン主演作のオーディションに落ちたり、“第2のブランド”という呼ばれ方をされたりと、キャリア初期には不本意な時期を送っていた。
一時期はテレビに活躍の場を移していたニューマンだが、ディーンの急逝により『傷だらけの栄光』(1956年)の主演を務めることに。不良から世界チャンプとなった実在のボクサー、ロッキー・グラジアノ役で、立ちふさがる困難に立ち向かっていく“負け犬”の生きざまを熱演。自身と重なるような役どころで魅力を開花させた。
何度でも立ち上がる、不屈の負け犬を数多く演じてきた (C) 1967 WBEI
その後も、法や権力、心の葛藤など、さまざまな障壁にぶち当たりながらも何度でも立ち上がる気概あるアウトローを数多く演じたニューマン。ある時はチャーミングに、またある時には情けなくも、根底に不屈の精神を感じさせる男性像を体現し、見る者の心をわしづかみにしてきた。
『ハスラー』『明日に向って撃て!』…代表作で演じてきた名キャラクター
今回の特集上映にラインアップされた『明日に向って撃て!』(1969年)、『熱いトタン屋根の猫』(1958年)、『ハスラー』(1961年)、『暴力脱獄』(1967年)の4作品でもそんなニューマンの魅力を存分に味わうことができる。
どこかいとおしさを感じるダメ人間も、ニューマンのハマリ役の一つ (C) 1961 Twentieth Century Fox Film Corporation.
例えば、『ハスラー』で演じたのは15年間無敗の大物ミネソタ・ファッツに戦いを挑む賭けビリヤードのハスラー・エディ。勝ちにこだわり過ぎて勝負のやめどころが分からなくなったり、恋人の財布から金をくすねたりするダメ男だ。
『ハスラー』では伝説のプロ、ウィリー・モスコーニの指導の下、役作りを行ったニューマン (C) 1961 Twentieth Century Fox Film Corporation.
勝負でコテンパンにぶちのめされ、挙げ句にはあるショッキングな出来事に見舞われてしまうエディ。それでも屈することなく戦いに挑むタフな男の気骨を、どこか情けなさを漂わせながらも、ニューマンは人間味たっぷりに表現している。
『暴力脱獄』で演じた役柄は、泥酔し器物破損で刑務所に入れられてしまうという情けない主人公・ルーク。収監されて早々、囚人のボスと戦うことになるが、どんなに殴られても立ち上がる屈強さで一目置かれ、非人道的な刑務所から幾度も脱獄を試みる諦めの悪いキャラクターだ。
『暴力脱獄』の“ゆで卵食い”はどこか笑え、チャーミングなニューマンの魅力を味わえる (C) 1967 WBEI
ゆで卵を50個食べるなど、無謀な賭けにもとにかく諦めない姿勢で男を上げていく、何ともかわいげのあるキャラクターだが、そこはニューマン。チャーミングな笑顔や涼しげな表情で不屈の男にカリスマ性をもたらしている。
また、西部劇の傑作『明日に向って撃て!』では、ロバート・レッドフォード扮するサンダンス・キッドと共に、強盗団「壁の穴」を率いて鉄道や銀行を襲撃するブッチ・キャシディを演じた。
実在した伝説の強盗団を題材にした『明日に向って撃て!』 (C) 1969 Twentieth Century Fox Film Corporation
頭が良く機転の効くブッチは、手下から勝負を持ちかけられれば卑怯な手を使って勝利したり、刺客に追われればすぐに逃げ出したりとどこかせこい男。しかし、ニューマンのスマートで余裕のある顔つきにかかれば、これまたかっこよく見えてしまうから不思議。やめればいいのに懲りずに強盗を繰り返す、なんとも憎めないアウトローぶりがハマっている。
そして『熱いトタン屋根の猫』で演じた大農園の次男坊・ブリックは、今は亡き親友へのかなわぬ思いに苦悩し、美しい妻・マギー(エリザベス・テイラー)とは冷え切った関係にある人物。酒浸りでどこか刹那的な日々を送っており、これまで演じてきたタフな男たちとはひと味違う男の複雑な胸中を、思い詰めた目つきで繊細に表現している。
エリザベス・テイラーに「私を夢中にさせる美貌」と言わしめたブリックのキャラクター (C) 1958 WBEI
ホモセクシュアルと思しきキャラクターを、同性愛者への偏見が強かった時代に演じているニューマン。彼自身のリベラルで、間違った社会に対する反抗心が表れている役ともいえるだろう。
ポール・ニューマンの不朽の名作4本がラインアップされた貴重な機会となっている (C) 1967 WBEI
不遇の時代を経験しながらも、決して諦めずに演技と向き合い続けたポール・ニューマン。そんな彼だからこそ、負け犬やアウトローといったある種の“はみ出し者”を、魅力的なキャラクターへと昇華させられたのだろう。
文=ケヴィン太郎
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『≪テアトル・クラシックス ACT.2 名優ポール・ニューマン特集 ~碧い瞳の反逆児~≫』
2022年10月21日(金)より全国ロードショー