残業代は払われる?もしも働けなくなったらどうする? 学校では教えてくれなかった労働とお金のこと
“大人だったら知っていて当然”といわれる知識が社会にはたくさん存在します。
この連載では、「子どもの環境・経済教育研究室代表、元公立鳥取環境大学経営学部准教授」の泉美智子さんが「学校では教えてくれなかった社会で生きていくために知っておきたい知識」をご紹介。労働のこと、お金のこと、結婚・子育てのこと、介護のこと、住まいのことなど、身近な役立つ知識を図解とともに紹介します。
今回は、労働とそれにまつわるお金の疑問について。労働の対価と言えばお金ですよね。残業代はちゃんと払われるの? もしも働けなくなったらどうしよう…気になる疑問にお答えします。
ANSWER:既定の時間を超える場合は必ず支払われるもの。
労働時間は労働基準法により、1日8時間週40時間以内と決められており、それを超える分には当然残業代が支払われます。しかし、近年問題になるような違法労働を課す会社では、下のような制度を利用して悪質な未払いを起こすこともあります。固定残業制にしても、超過した分はきちんと残業代が出ているかなど、自分でもチェックしてみましょう。
≪POINT≫
■残業代の計算の仕方
1時間当たりの賃金(月給から計算する)×残業時間×割増賃金(残業した時間などで割増率は変わる)
・割増賃金の種類
■残業でトラブルが起こりやすい働き方
1)固定残業代制
あらかじめ定額を固定残業代として支払う方法。
・想定以上の残業には残業代を払う必要あり
固定残業代を支払っているからといって、何時間も残業させてよいわけではない。月10時間分の固定残業代を支払っているのであれば、それを超えた分は別に支払われなければならない。
2)変形労働時間制
週、月、年いずれかの単位で一定の労働時間に収まれば、1日8時間を超えて働いてもよいとする制度。繁忙期と閑散期がはっきりしている職場で採用される。
・法定労働時間越えに注意
所定の労働時間を超えて働いたら残業代が発生する。労働時間の集計が複雑になるため、労働者が自分で労働時間をしっかりと把握することが必要になる。
3)みなし労働時間制
裁量労働制ともよばれ、どのくらい働いても労働時間を固定の時間とみなす、労働者の裁量に任せた制度。
・実際と差がありすぎる場合は無効
裁量労働制といいながら、長時間労働を強いられるケースがある。裁量がなく、また労働時間と「みなし時間」の差が大きい場合は、裁判で合理性がないと判断され、残業代が請求できる場合がある。
ANSWER:労災保険や健康保険の傷病手当金で補償してもらえる
突然の病気やケガで、働けなくなるリスクは誰にでもあります。そんなときに生活を保障してくれるのは、労災保険と健康保険です。
業務中の病気やケガは労災保険、それ以外は健康保険でお金を補償してもらえるのです。業務中の病気やケガには、労災保険が活用でき、通勤中のことであっても適用されます。これはすべての事業所が加入しており、パートやアルバイトでも対象になります。労働者からの徴収はないため、給与明細に保険料の記載はありません。
労災に認定された病気やケガについては、治療費はすべて無料、もしくはすべて還付されます。また、働けない分の休業補償や、障害が残ったときの障害補償、死亡した場合に遺族に支払われる遺族補償など、さまざまな給付が受けられます。健康保険は、毎月の給料で天引きされて納めている保険料の種類のひとつです。この中の傷病手当金という制度では、月給の3分の2を日割りした金額を欠勤した日数分もらえて、通算で1年6カ月分支給されます。また、40歳以上で認定を受けた場合は、介護保険も適用されます。働けなくなってしまった場合でも、まずは焦らず、制度を活用して身体を治すようにしましょう。
≪POINT≫
■働けなくなった人を支える保険
・業務中の病気やケガ
→労災保険
・それ以外の病気やケガ
→健康保険の傷病手当金
■給与の3分の2がもらえる傷病手当
健康保険に加入していれば、日割りで休んだ日数分傷病手当金がもらえる。3日間連続して欠勤した翌日から、通算で1年6カ月分が支給される。
■労災保険給付の流れ
■労災保険給付の一覧
完治前
・療養(補償)給付、休業(補償)給付
傷病の治療を受けたときの給付
・休業(補償)給付
傷病により賃金を得られないときの給付
・傷病(補償)年金
1年6カ月たっても治らないとき(または障害が残ったとき)に年金を給付
障害が残ったとき
・障害(補償)給付
治癒したものの障害が残ったときの給付
・介護(補償)給付
一定の障害が残ったときの給付
死亡
・遺族(補償)給付
労災で死亡したとき、遺族に年金や一時金を給付
・葬祭給付
死亡した人の葬儀のときの給付
労働の対価は、働くモチベーションにもつながります。また、もし働けなくなった場合も、事前に知識として知っていれば、いざというときに慌てないですみますので、覚えておきましょう。
泉美智子
子どもの環境・経済教育研究室代表。公立鳥取環境大学経営学部准教授(2018年3月まで)
全国各地で「女性のためのコーヒータイムの経済学」や「エシカル・キッズ・ラボ」「親子経済教室」など講演活動の傍らテレビ、ラジオ出演も。環境、経済絵本、児童書の執筆多数。『節約・貯蓄・投資の前に 今さら聞けないお金の超基本』(朝日新聞社)、『学校では教えてくれなかった 社会で生きていくために知っておきたい知識』(KADOKAWA)などを監修。
この記事で紹介した書籍ほか
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