防災

避難所はあなたの家です!「在宅避難」の備えと心構え

目次

災害時には、日本では地震や台風による洪水や土砂崩れなどを想定し、有事の際は自宅を離れ、近隣の指定避難所へ向かおうと、ご家族間で話し合われている方も少なくないのでは。しかしながら、阪神淡路大震災において、多数の被災者が長期にわたる避難所生活を余儀なくされ、トイレの衛生環境や寒さ、プライバシーなどさまざまな観点で問題が浮き彫りに。その結果、東日本大震災では、倒壊を免れた自宅での避難生活を選ぶ人もかなりの数で現れたという。

震源地や堤防の決壊場所から遠く離れているものの、電線や水道管などの破損によってライフラインが停止…。そんな状況において、選択肢として考えておきたいのが「在宅避難」。住み慣れた我が家だからこそ可能な備蓄方法など、日頃からの備えについて、『おうち避難のためのマンガ防災図鑑』(飛鳥新社)の著者でイラストレーターでもある防災士・草野かおるさんに教えてもらった。

まずは知りたい!「在宅避難」の基本

災害時において、自宅に倒壊や焼損、浸水、流出などの危険性がない場合は、そのまま自宅で生活を送る「在宅避難」が推奨されている。「移動時間がゼロ」「プライバシーが万全」といったメリットがある一方で、さまざまなデメリットも存在する。

メリット

  • 避難のための準備をしなくてよい
  • 日常と変わらない生活を送ることが可能なため、ストレスが少ない
  • 感染による風邪などの病気にかかりにくい
  • 日頃からの備蓄品をすぐに使うことが可能

デメリット

  • 最新の情報が入手しづらい
  • 給水や入浴、食糧配布など、行政のサポートが受けにくい

「近年のコロナ禍など、健康面でも在宅避難で得られるメリットはかなり大きいと感じています。中でも、一番大きいのはトイレの問題ですね。やはり大勢の共同生活ですので、使いたいときに並ばなければならなかったり、女性の場合は深夜の利用が怖かったり、何より全員がきれいに使ってくれるとは限りません。トイレに行きたくないあまりに水分補給を控えて体調を崩す方もいらっしゃるという話もありますので、そういった観点からも、在宅避難には大きなメリットがあると思います。その一方で、情報をはじめとする行政のサポートが受けにくいというデメリットも考えられますので、ご自身に合った避難方法を選ぶといいと思います」(草野さん)

もしものときに備える…「在宅避難」の心構え

いつ起こるか分からない災害。そんな中で、在宅避難に必要な心構えは、以下の通り。

  • 情報は自分で入手。そのために必要な物は常備をしておく
  • 家族がそれぞれ外出している時間帯に被災した場合は、無理に自宅に戻ろうとしない
  • 日頃から備蓄品を用意&チェックしておく

「インターネット上にある情報は、災害時にとても役に立ちます。最新の情報を入手するためにもスマートフォンや携帯電話、そして充電用のモバイルバッテリーは常に持ち歩いておくといいでしょう。また、家族全員が外出している際に被災する可能性もありますが、無理に帰宅しようとするよりも学校や大きなビルなどにどどまって安全を確保することも選択肢に入れておいてください。そして、何よりも日頃から備蓄品を用意し、ローリングストックしながら非常食や衛生用品などは消費・使用期限を確かめて備えておきましょう」(草野さん)

非常食にもなる食品は日頃から備蓄しておきたい(『おうち避難のためのマンガ防災図鑑(飛鳥新社)』より)

いざ!「在宅避難」のポイント4選

「災害が起きても、在宅避難すればいいから安心」といった気の緩みがあると、いざというときに困ってしまう可能性も。下記のポイントは日頃から意識しておきたい。

小銭など現金の用意

「最近は電子マネーを利用されている方が多いと思いますが、ライフラインが止まってしまうと、銀行のATMからお金を引き出すことはもちろん、対応レジなどが使用できなくなります。現金のみでの買い物を余儀なくされることが想定されますので、必ず小銭など現金は手元に用意しておきましょう」(草野さん)

快適なトイレの準備

「排水管が壊れたり、水道が使えなくなるとライフラインが止まってしまうことに。特にマンション被災では、トイレのお水を流してしまうと低層階にお住まいの方のお部屋が大変なことになってしまいます。なので、家族全員分の簡易トイレを最低3日分は準備しておくことをおすすめしています」(草野さん)

簡易トイレがなくなってしまった場合に使えるアイテムも(『おうち避難のためのマンガ防災図鑑』(飛鳥新社)より)

温かい非常食で心と体の健康を維持

「やはり食は大切です。生活に必要な水は1人1日3リットルが目安です。飲料用以外にも、調理用の水とカセットコンロとボンベも備蓄しておきましょう。寒い時期での避難生活では、温かい食事が精神的な支えになりますので、窓を開けるなど、換気に注意しながら調理を行ってください」(草野さん)

自宅内でも移動時は明かりを用意

「停電で街灯も消えてしまうほどに電気が使えない夜は、どこもかしこも真っ暗です。慣れた家の中を移動する際も、安全を考慮してライトを使用してください。特にお年寄りが階段を使う際は、首から下げるライトやヘッドライトを使うと、両手が使えるので安心です」(草野さん)

ライフラインが止まるなどの不自由さはあるものの、自宅の倒壊の恐れがないという安全が確保できるのであれば、少しでも日常の生活に近づけた避難が可能となる「在宅避難」。家族で暮らしている方はもちろん、実家を離れて一人暮らしをしている方も「災害時は自宅で避難する」という選択肢を持ち、ローリングストックとして備蓄品を購入しながら使用するなど、日頃から防災意識を高めていきましょう。

取材・文=中村実香

プロフィール

草野かおる

イラストレーター/エッセイスト/防災士。セツモードセミナー卒。出版社勤務の後イラストレーターとして活躍。PTA、自治会を通じて16年にわたり防災勉強会や防災訓練などで、防災活動に関わったことを生かし、ツイッターやInstagramなどのSNSで防災、食養などを中心に発信中。著書に『おうち避難のためのマンガ防災図鑑』(飛鳥新社)『4コマですぐわかる 新 みんなの防災ハンドブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

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