コメディ・迫力の映像・波乱を生き抜く女性たち……3作目の三谷大河『鎌倉殿の13人』の魅力とは
現在放送中の、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。三谷幸喜さんの脚本による三度目の大河ドラマで、伊豆の弱小豪族の次男坊だった主人公・北条義時が幕府の頂点に至るまで、その波瀾万丈な生涯が描かれます。北条義時を演じているのは俳優・小栗旬。現在放送分では義時の義兄となった源頼朝(大泉洋)を大将に、打倒平家のための戦がスタート。勇猛で知られる関東の武士、坂東武者たちの戦いが描かれています。
これぞ三谷大河 笑いと壮大なスケール、両方が楽しめる
本作の魅力は、なんといっても三谷作品らしいコメディ要素と、さすが大河ドラマという壮大さ、その両方が楽しめるところ。第一回は、流罪人として伊豆・伊東家にいた頼朝が、その家の娘・八重(新垣結衣)と子をなしたことで当主の逆鱗に触れ、義時の兄・宗時(片岡愛之助)に匿まわれるところからスタート。頼朝を味方につけ、いずれ打倒平家の戦を起こそうと父の許可もないまま突っ走る宗時に振り回され、さらに頼朝が気になる姉・政子(小池栄子)にも手を焼く義時の姿が、おかしみをもって描写されました。三谷氏は「笑えるシーンを描くということは、人間を描くということ」と本作の公式インタビューで話していますが、その象徴のような義時がてんやわんやする姿に「ああ、三谷作品を観ているんだ」と胸が高鳴った人も多いのでは。
そして、そんな会話劇を楽しんでいたら、ラストには馬に乗った義時と頼朝が、敵の攻撃をかいくぐりながら疾走する迫力満点の映像も。NHKが精力を注ぐ大河だからこその壮大な映像美、贅沢な演出も満載で、「大河ドラマを観ているんだ」という満足感もたっぷりです。その後も頼朝に発破をかけるため、後白河法皇(西田敏行)が夢枕に立ったり、水鏡に映ったりするコメディ感あるシーンがSNS上で話題になったりと、脚本と演技の魅力も存分に発揮されています。また各話のラストでは、その後亡くなってしまう宗時が義時に自分の本心を語ったり、大将の器ではないと案じられていた頼朝が坂東武士団最強の男・上総広常(佐藤浩市)に毅然とした態度を取ったりと、見ごたえのあるシーンが必ず用意されており、しっかり感動させられてしまうのもさすが三谷幸喜作品です。
八重・政子・りく……混乱の世を強く生きる女性たち
これまでの放送の中で特に印象的だったのが、第四回「矢のゆくえ」で、頼朝の元妻・八重が頼朝のために身内を裏切り、「今が攻撃の好機である」ことを伝えるためにサインとなる矢を放つシーン。父の一存で頼朝と引き裂かれ、息子を殺され、身分の低い男のもとに嫁がされる。この時代の女性の悲運の象徴のような人生を送る八重ですが、父に歯向かい、夫とは決して相容れず、さらには「頼朝が自分の夢枕に立ったから、きっと頼朝は生きているはず」とわざわざ頼朝の現妻・政子に伝えに行ったりと、意志が強く行動力のある女性として描かれます。また義時の父・時政に後妻として嫁いできたりく(宮沢りえ)も、自分の「京に帰りたい」という野望のため、戦の日を決めるみくじに細工をしたりと、なかなかの策士。本作では、自らの未来を自分の力で切り開こうとする女性たちの存在も描かれています。のちに尼将軍と呼ばれ、恐妻としても名高い政子は、まだその本領を発揮していませんが、これまでも強い女性を演じてきた小池栄子による政子が、どんな造型になるかも、楽しみです。
当初は「米蔵で木簡の整理をしている方が性に合っていた」というほど争いに興味がなかった義時。しかし彼の人生は彼自身のあずかり知らぬところで、どんどん大舞台へと舵を切っていきます。頼朝の信頼を得て、兄・宗時の「坂東武者の世を作る。そしてそのてっぺんに北条が立つ」という最期の言葉を胸に、今や平家に謀反の兵を挙げることについて「こんなに面白いことはない」というほど、その志は変化していきました。そんな義時の成長・変化は最大の見どころとなりそうです。今のところ野心のまったく見えない義時が、どんな人生を歩み、幕府の頂点に至るのか。本作の三谷氏への公式インタビューによると、「『鎌倉殿の13人』が本当に始まるのは頼朝が死んでから」とのこと。今後ますます面白くなっていくこと必至の今期の大河ドラマ、要チェックです。
文=原智香
記事提供=ダ・ヴィンチWeb
この記事で紹介した書籍ほか
鎌倉殿の13人 前編 NHK大河ドラマ・ガイド